スマホのメッセージング・無料通話アプリの国内デファクトスタンダードとなりつつある「LINE」ですが、2月26日に「LINE電話/LINE Call」という新しいサービスの開始を発表しました。詳しくはググってもらうとして、簡潔に言うと今までLINEアプリをインストールしている人同士でしか通話できなかったところを一般の携帯電話や固定電話にも発信できるようにするサービスです。特徴は通話料金が通常のキャリアの通話料金の1/3程度に抑えられていること、自分の携帯電話番号で相手に通知されること(相手がNTTドコモの場合だけ不可)などで、国内外で3億人以上のユーザーを持つアプリですから、業界へのインパクトは相当大きいと見られています。
詳しいサービス内容を知りたいところですが、かき集めた情報から判断するに次のようなものではないかと推測しています。
- アプリから発信する際に通常の電話番号宛に発信する場合は【発信スマホ→IP通信→LINEサーバ→キャリア電話網→相手方電話】といった経路で通信する。
- 着信は普通にキャリア電話で行う(LINEアプリを入れている場合はそちらへの通知を優先するなどの振り分けくらいはやってくれそうだけど、LINEアプリにつながると環境によっては着信側の負担(データ通信のパケット消費など)が発生するためユーザには良いことなし)
- 携帯電話番号で認証をしているユーザーのみが利用可能。つまりiPod touchやiPad、アンドロイドタブレットなど携帯電話でない端末、あるいはSIM抜きのスマホなどからは使えない。
ユーザーにとっては電話料金を劇的に下げるツールとして歓迎されるでしょうが、既存のキャリアやIP電話サービス業者にとっては厳しい戦いを強いられることになります。ただし事業セグメントが完全に被っているわけではないので、収益の一部をLINEが破壊して奪っていくことはあっても、息の根を止めることはできないでしょう。そんなことをすればこのビジネスモデル自体が成り立ちません。
まず1点目ですが発信スマホからLINEサーバまではIP通信を必要とするため、なんらかの手段でIP接続を必要とします。自宅や職場などに安定したWiFi環境があればそれらを使うことができますが、それがかなわない場合は当然携帯キャリアの3G/LTEなどのデータ通信を使用する必要があります。キャリアにしてみれば発信者の通話料という収入は奪われ(LINEからキャリアへの接続料はあるので全部ではない)、データ通信を提供する務めは依然負い続ける必要があります。
2点目も重要です。着信についてLINE側がやることはキャリアに接続することだけですが基地局整備、端末の把握や着信の制御といった難しいインフラの維持は依然キャリア側の責務です。つまりLINEは、「通話料において発信者側が全てを負担することで着信側のサービスを維持するのに必要なコストをカバーする」という現行キャリアの通話料金の非対称性、キャリア側の競争環境を逆手にとって、破壊的なビジネスモデルを生み出したと言えそうです。
こうなってくると携帯キャリアは今後どのような変化を強いられるでしょうか?まず安直な解としては
- 基本料金を上げる
- データ通信料金を上げる
などが考えられます。ただ、これはキャリア同士の競争が激しい環境で正面から行うのは難しいかもしれません。
- 着信にも課金する
なんてこともしたい誘惑に駆られそうですがユーザー感情を考慮するとさすがに無理でしょう。
- データ通信を従量課金にする
といったことならまだ可能性がありそうです。現在スマホ所有者の多くは月7GB上限などの定額サービスを契約していますが、実態として月に7GB近くも使うユーザーはごく少数であり、ほとんど人は1GB未満だと言われています。つまり払っている料金に対してフル活用できずに捨てている通信量があるので、その分をLINE電話などの通話に充てられるとキャリア側としてはデメリットしかありません。そこで一般ユーザーのデータ通信量が増加した頃を見計らって従量課金に移行するといったシナリオも考えられます。データ通信をあまり使わない人にとっては負担が減る可能性もあるので、プランの作り方によっては反発を抑えながら、少しづつ移行することもできるかもしれません。キャリア側も今までに蓄えた体力はそれなりにあるので不可能ではないと思います。
2年前の記事に書いたことが現実になるかもしれません。
僕はキャリアがVoIPに本腰を入れるのかどうかに注目しています。有線の世界では光ネットワークの普及と一緒にIP電話が広がっていきましたが、VoIP対応のルータをレンタルにしたり番号通知サービスを高額で提供するなどして、なんとか収益を維持しています。無線の世界ではこういったビジネスモデルが難しいため、各社今のところは消極的なようですが、スマホアプリに触発されていずれは本格参入せざるを得なくなるのではないかと思っています。そうすると今までの料金体系は難しくなってくるので、通話料金ももう少し安くなっていくでしょう。その代わり、現在のようなパケット無制限サービスはなくなり従量課金になっていくことも考えられます。
いずれにせよキャリアも収益とサービスレベルを維持するための料金の仕組みについてなんらかの措置をとらざるを得なくなるのではないでしょうか。結果的に「通話料」は下がったけども「データ通信料」は上がった、なんてオチになりやしないか少し心配です。最悪のシナリオとして
- 携帯キャリア各社の談合、政治力行使による対抗
- 一部キャリアが合併し寡占状態へ
なども考えられますがLINEとしてもそういった状態は望まないはずなので絶妙な手綱さばきが求められそうです。
ちなみに3点目の指摘は050plusやIP Phone SmartなどのIP電話サービスになんとか活路は残しています。これらのサービスは独自の電話番号を取得することができるため、携帯電話ではない端末からも使える点が唯一の売りです。ただ、今のままでは事業の大幅縮小は避けられそうにありませんから、スマホ向けサービスから離れ家庭や職場などの固定電話代替としての市場を模索することになるかもしれません。
LINEが目指しているのはこの電話サービスで大幅な収益を上げることではないだろうと思います。それよりも携帯キャリアの最後の砦である「通話」という膨大なチャネル(それは高齢層やビジネス層も含まれる)を確保し、より収益性の高いサービスへの誘導を図ることではないでしょうか。
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