前回最後に触れた050plusとは、NTTコミュニケーションズがiPhone向けに開発したIP電話アプリです。iPhone向けのIP電話アプリは今までにもSkypeをはじめとしていくつかあったのですが、050plusは今までのものとはちょっと異なるため、結構話題となっています。
ポイントは050で始まるIP電話番号を取得できるため、固定電話や携帯電話に普通にかけることができ、かつ相手に番号通知をすることができる点です。もちろん着信もできます。今までのIP電話アプリは基本的にはそのアプリを入れた人同士が無料通話をするためのものとして作られていましたが、050plusが他の電話ネットワークと「普通に」つながったことは重要です。
Skypeではすでに050番号を取得して携帯電話や固定電話に発信・受信するための仕組みも提供していましたが、どうも品質面での評判が悪く相手に番号が通知されなかったり、表示がおかしくなるなどの不具合が報告されるなどして苦戦していました。番号が安定して正しく通知されないと相手に不審に思われるなどのデメリットもあります。電話サービスにおいて相手に正しく番号通知をするということはとても大事なことなのです。
さらに重要な点は通話料金の安さです。050plus同士の通話は無料なのは当然として、その他の提携プロバイダ提供のIP電話とも無料通話ができ、かつ携帯電話、固定電話への通話料金が現時点では最安のラインにあるのではないかと思います。(固定電話全国一律2.7円/3分 携帯電話 16.8円/1分)基本料金も月額315円と他のIP電話サービスと比べて比較的安価な設定です。携帯電話の料金プランでは基本料金を安めに設定すると通話料金が高くなるなど、なんだかんだで電話会社が儲ける仕組みになっていますが、基本料金・通話料共に非常に安いので安心して使えます。そもそもIP電話サービスというのは基地局や通信網といった通信インフラに対しては責任を負わないため、非常に運用コストが安く済みます。その上で既存のインフラを持つNTTグループとしての強みを活かし、低コストで安定したサービスが実現した訳です。
これはモバイルの理想形とも言えます。何が理想なのか。それはサービスが垂直統合ではなく水平分業によって提供されることです。今までの携帯電話のビジネスはNTTドコモなどの携帯キャリアが無線・有線の通信インフラから端末のハードウエア仕様、通信のための規格・プロトコルなどのソフトウエア・サービスまで全てをコントロールすることで成り立っていました。スマートフォンの登場によって端末ハードウエアやクラウドなどのサービスはappleやgoogleに主導権が移りました。そして今度は安定したIP電話サービスが登場したことにより、通信プロトコルと通話への課金が携帯キャリアのコントロール下から離れることになります。それぞれの分野でサービス提供者が異なれば消費者の選択肢も増え競争が促進されるので、結果的には安価で良いサービスを受けることができるようになります。身近な例としては90年代以降のパソコン業界が良い例でしょう。
「水平分業はそれぞれが無責任だから品質が劣る」「垂直統合の方が品質が高く安心だ」といった意見もあります。それもある面では事実です。appleなどはジョブスを頂点とした垂直統合型企業だから成功したとも言われています。(正確にはHW生産はアジアに分業しており、ソフトウエアやマーケティングなどの得意な分野に集中して徹底的にコントロールしたということだと思います。)
タイムリな例で言えば、電力業界の地域独占体制なんかもありますね。欧米などは早くから電力自由化に踏み切り、電力市場が生まれています。ただ、一部で停電が起きたり電力料金が安定しないなどの問題も生じるようになったため、ガチガチの垂直統合である日本で停電率が世界一低かったことを挙げて、だから垂直統合の方が良いといった意見も聞かれます。しかし、欧米で起きていることはそれほど大きな問題なのかという視点も重要だと思います。それがコストに見合ったもので、十分リカバリ可能なレベルであれば、問題ないというのは日本以外のグローバルスタンダードな感覚ではないかと思います。しかも、電力自由化によって起きている不安定性は市場の調整がうまくいっていないことによるものなので、制度設計の問題ともいえます。市場ルールの改善などを繰り返していけば、いずれは自由化した国の方がサービスが向上するというのが僕の予想です。だから日本もこれを機会に徹底して電力自由化をして欲しいと思っています。
水平分業が進めば消費者にとってはメリットがありますが、事業者にとっては美味しい部分が奪い合いになるわけで、既得権を持つ側にとっては面白くありません。となるとNTTコミュニケーションズはこんなサービス始めちゃっていいの?という疑問も出てきます。実はあまり良くないみたいです。というのもこのサービス、場合によってはNTTドコモの利益も食いかねない可能性を秘めているようです。今はiPhone限定のサービスと謳うことでSoftbankを仮想敵としていますが、今後Androidにも対応する予定と公言しており、もし実現すれば当然ドコモのスマホユーザも通話料金節約のために使いだすことになります。NTTコミュニケーションズはNTTやNTTドコモに相談せずにサービスを開始したと言っており、ドコモの幹部をして「不愉快だ」とまで言わしめています。NTTコミュニケーションズはそれだけの覚悟でやっているわけで本気度が伝わります。
さて、話が脱線しましたが僕もPHSの解約を目指して試しに050plusをはじめることにしました。と、ここで一つ問題が。実はこの050plusは公式にはiPhone【のみ】対応としており、iPod touch、iPadは対象外としているのです。「なんだ使えないじゃないか」となりそうなんですが、実はアプリとしてはダウンロードもできるし、まったく問題なく動作します。ただ最初の手続き開始時にiPhone電話番号の入力を求められるため、そこだけ裏技が必要となります。(詳しくはググってください)
使ってみた感想ですが、通話品質も電話番号通知も着信もなかなか安定しており、これなら実用に耐えるのではと感じています。ただ、当然ながら問題点もいくつかあります。
次回はこれらの問題点も挙げながら検証してみることにします。
コメント
我が家の通信代は、光電話(ネット代、電話代も含めて5500~6500円ぐらい))、ヤフーのプロバイダー料(1260円)と、ドコモ携帯料金(2人で3300円位)、合計1万円前後払ってるよ・・・
安いのか、高いのか解からん・・・(-_-;)
固定電話もあまり長電話もかけないし、携帯なんて、用事がない限りメールも通話も使わないし、夫婦同士の通話料は無料だし、最低限の基本料金しか払ってない・・・
毎月サービス通話料(1000円)も、使った残りは次の月に、3ヶ月間は加算されていくし、そのサービス通話料金まで残って捨ててるよ・・・(-_-;)
あんたの言ってること専門過ぎて、よく解からんけど、
使いやすくて、全てに便利で安価な方が、年金暮らしの我が家にとっては最適だろうけどね・・・(^^;)
でも、使い方が、あんまり複雑すぎていくと、これまた理解するのにフーフー言うんじゃ、年寄りにはメリット無しだわなぁ~・・・(>_<)
●かこグランマ
この記事は携帯とかでたくさんネットアクセスするような人向けの内容です。携帯を電話とメールでしか使わないなら人にはあまり関係ない話かも。
ただ最近のインターネットの主役はパソコンからモバイル(移動体通信)に移りつつあるのは事実。一度iPhoneやiPadを触ってみると分かるけど、使い易さがパソコンとは全然違うから寧ろ高齢の人にこそオススメです。今までマウスでポチポチやってたのがアホらしく感じるよ。
通信関係が複雑なのはその方が抱き合わせ販売で儲かるから。不要なものをそぎ落としていくと実は大したコストは掛からないんだよね。
NTTコミュニケーションズはNTTやNTTドコモに相談せずにサービスを開始したと言っており、ドコモの幹部をして「不愉快だ」とまで言わしめています。
>初耳でした。
それのしても疑問が残ります。なぜ海外のvoipサービスでは日本国内において、受信側に電話番号表示が出来ないのか?
*海外のvoipサービスの方が、料金が圧倒的に安い。
以前は表示されていても、ネットで広がると、表示できなくなった海外のvoipサービスもあります。
自身達の保身もわからないでもないですが、これでは近所の大共産国となんら本質的な部分では変わらないと思ってしまいます。
●voipオタクさん
コメントありがとうございます。
電話番号表示については日本は独自のガラパゴス規格を使ってるみたいなので、なかなか対応するのが大変(あるいは面倒)というのがあるのかもしれません。
日本は既得権の政治力が強すぎてこういう障壁が山のようにありますよね。いずれにせよvoipに移行せざるを得ないのは間違いないと思うのですが、とにかく抵抗が激しいです。抵抗すればするほど追い詰められるというのがどうしても分からないみたいです。
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