日銀がインフレ目標を2%とする事に同意したようです。アベノミクスの目指す「強い日本を取り戻す」ための取り組みが本格的に始動したと見られているようです。これについてテレビなどではインフレ目標や安倍政権の意図などについて解説がなされていますが、多少距離は置きつつも「もしかして日本経済は復活するのではないか」という期待感を滲ませているためか、批判的な意見はあまり出て来ません。
政治もマスコミも有権者や視聴者の耳触りの良い情報を提供することは理にかなっているので全く期待はしていませんが、幻想を振り撒き続ければ、いつかそのツケを払う時が来るのは世の常です。
幻想は現状認識を歪めるため問題の本質的な原因が理解されるのを妨げ、その解決を先送りするだけです。僕の目にはアベノミクスがまさにその問題先送りを「強力に推し進め」ようとしているように見えます。というわけでここでまず僕が幻想だと思っていることとその理由を挙げてみたいと思います。
●日本経済が苦境なのは円高とデフレのせいだ
純粋な輸出産業において円高が価格競争力に影響を及ぼすことは事実でしょうが、円高下でも競争力があり成功している企業は沢山あるし、そういう企業は円高に適応しています。円高は燃料費や材料費の高騰を抑える役割も果たすためトータルでは経済に中立です。デフレも同様で同じ金額による購買力が上昇する事で実質的な賃金の上昇効果があります。企業にとっては苦しいでしょうから年功序列の賃金上昇を抑制する事で対応しており、長期的にはプラマイゼロです。これは成長著しい新興国との賃金格差を縮める調整効果があるので世界がより平等になっていく過程と見る事もできます。問題があるとすれば、円高にせよ円安にせよ値動きが急激になる事で実体経済の調整が間に合わない場合で今まさにその被害を被っている業界もあります。またグローバルな賃金平準化の影響を若年層の非正規雇用化や賃金上昇の抑制でしわ寄せする事が格差の拡大と定着を加速しています。調整は不可避なのでその影響をいかに偏りなく分担すべきかが本質的な課題だと思います。
●デフレ脱却できないのは日銀が本気で金融緩和を行っていないからだ
少なくとも日銀はまだ何もしていないのにここまで円安になっている事から分かるように為替や物価は金融の動きに大きく影響を受けます。一国の金融緩和の影響力は限界があるのです。
経済規模に対する緩和規模の割合で見ると日銀は過去も現在も世界でトップクラスにあり純粋な利下げのみの効果は限定的であったことが実証されています。実体経済の側に資金需要がなかったからです。じゃあ金利がゼロに近いのにこれ以上何をやるのかというと何の事はない日銀の刷ったお金で国債などを購入して、政府が大規模な財政支出をする事で強制的にお金を市中にばら撒くということをやろうとしている訳です。特に目新しい話でもなく、今までやってきたことの規模をもっと拡大しようという事に過ぎません。これには警戒が必要で、政府が日銀を自由にコントロール出来るとなると市場が「通貨の信頼性や財政規律が失われた」と判断するリスクがあります。バラマキや円安が数値上のGDP上昇をもたらしている間は容認されるかもしれませんが効果が切れた後には莫大な借金が残るのみとなり、「いよいよヤバイ」となった時にはもう手遅れです。
デフレ脱却を目標にしても原因と結果を取り違えているので別の歪みが生じるだけだと思います。
●インフレになれば死蔵されていたお金が使われるようになり経済が成長する
なんでそんなにインフレにしたいのかというと、これを根拠としているわけです。インフレが経済を活性化する効果があるのは事実でしょうが、高齢化や少子化などの強力な市場縮小圧力が掛かっている元での効果は限定的だと思います。お金があっても将来の予測が大きく変わらなければ人は無駄なお金は使わないと思います。結局のところ合意文書に日銀が滲ませていたように、政府がやるべき改革を行わなければ人々の予想も変化せず経済の活性化もない訳です。
インフレはデフレの逆で実質的な賃下げ効果があるので企業からすれば助かるかもしれませんが、庶民の生活は苦しくなります。昔のように売上の拡大と年功序列による賃金上昇が予測できた時代では容認できたかもしれませんが、市場が飽和•縮小し国際競争が激しい現在ではそのような期待を持てる人は僅かでしょう。
(つづく)
コメント
賃金が上がるといいですね。
還元して欲しいものです。
老後が不安で買い物する気になれません。
ローソンなどの一部を除いてはそう簡単には上がらないんじゃないでしょうか。
インフレ自体が実質的な賃下げと言ってもいいはずなんですが、企業に賃上げを要請する阿部さんの矛盾には呆れるしかないです。
インフレが企業の業績を良くするんじゃなくて好調な経済がインフレを起こすだけでムリに起こしたインフレは労働者の賃金にしわ寄せされるだけかと…。
企業の利益は延びると思いますが、売上が延びなければ賃金は上げられないので。。