Winny開発者の裁判に村井教授が証人として出廷、検察側の主張に異議
これ、逮捕から結構経ってるけど、まだ裁判の真っ最中だったのか。忘れてた。丁度逮捕されたときの日記を読んでみたけどなんとなく問題点が不明瞭な気もする。この時ぼくは何を感じたのだろうか。ちょっと掘り起こしてみた。
この村井教授の証言にもあるように「開発すること、運用すること、それがどのように利用されるかということは、分けて考えるべき」という意見には確かに一理ある。例えば車の制限速度違反に対して、時速200Kmで走ることの出来るスポーツカーを作った自動車メーカが制限速度違反幇助だという主張には多少無理がある(それも一理はあるが…)。検察側は膨らむ著作権侵害に対して有効な手が打てずにいた焦りから、先走って技術開発そのものに矛先を向けているようにも見える。一方で原子力や遺伝子操作・ナノテクのような全人類的な生存に関わるような技術開発が「運用・利用と分けて」考えられるかというとなかなかそうもいかない。ビジョンのない技術開発の危険性も歴史が証明している事実。技術開発の功罪という視点ではケースバイケースだと思う。
この問題の構造は利害の衝突と見たほうが理解し易い。つまり著作権と自由の衝突。新しい技術は人に新しい自由をもたらしてきた。例えば「知る権利」なんてものは過去には存在すらしなかったが、印刷・出版・放送・通信技術の進歩のおかげで今では権利として厳然と存在している。著作権に関わるものといえば家庭用ビデオが記憶に新しい。これも開発された当初は映画業界の猛反発を喰らい訴訟へと発展した経緯がある。先日、蕎麦打ちマシンがニュースに出ていたが開発者はこれによって人件費を削減しコストを10分の1にまで下げることが出来ると言っていた。消費者にとってはマシンの打った安い蕎麦を選ぶ自由を得たことになるが蕎麦打ち職人にしてみればたまったものじゃないだろう。新しい技術による自由は誰かの利益を損なうことが多い。
この事件は容疑者がP2Pファイル共有のソフトウエアを開発したことにより、人々が無料で音楽や映画などの著作物を手に入れる自由を与えたことに端を発している。ここで不利益を被っているのは著作権保有者ということになり究極的には著作権保有者とWinny利用で著作物のやり取りをした張本人同士の争いと考えることも出来る。アメリカのように業界団体がP2Pソフト利用者を突き止めて民事訴訟するのではなく、刑事事件となったところに違和感を感じたのはそのため。検察は「P2Pファイル共有ソフトの開発と配布は犯罪行為である。」という方針のようだ。しかし、ほんとにそれでいいのだろうか?
P2Pというのは Peer To Peer の略語で C/S(Client/Server) の対極にあるような言葉。端末同士がサーバを介さずに対等に通信できる仕組みで、そもそもインターネットの本質はP2Pだと言ってもいい。C/Sが主流になったのはWebとダイヤルアップが爆発的に拡大してから。SKYPEのようなP2Pインターネット電話は大成功を収めており、利害が一致する範囲において、P2Pは大変有効に機能することが証明されている。ファイル共有についても厳密にはP2Pでなくとも可能で、P2Pはより効率的な仕組みを提供しているに過ぎない。したがってP2P技術そのものを悪とするのは歴史的にも技術的にも矛盾していると思う。
P2Pが情報をコントロールしたい立場からするとあまり面白くない技術であることは確かなようだ。P2Pは個人の情報発信・検索能力を最大限に引き出すための仕組みであり、それを特定の団体・個人のコントロール化に置くことはとても困難だ。アメリカではブッシュ政権が国家による盗聴行為を合法化しようという動きがあるが、SKYPEでは端末同士が暗号化された不特定多数の経路を使って通信を行うため、盗聴は実質的に困難な状態になっているという。中国は独特で面白い。中国では政府がおおっぴらにネット上の情報を規制し台湾問題などの政治的発言を検索できなくしたりしているが、知的財産権の保護にはあまり積極的じゃない。ネットによってただで得られる知識が実は経済発展の下支えをしているということも良く理解しているからではないかと勘ぐりたくなる。P2Pはぜひとも活用したいが政治的に利用されては困るというジレンマに立たされているようだ。
ネットの基本は元々はP2P、つまり個人と個人の通信手段を飛躍的に強化した自由なインフラであって、企業が大量の動画広告を配信したりマーケティングに利用するためだけのものではないはず。でもP2Pを犯罪と直結した認識が一般化すれば、「危険なもの」として世の中から排除され得ることも充分考えられる。ソフトウエアというのはある意味法律より強力な強制力を持っているので、大衆のコンセンサスがあればP2Pの通信をネットから排除することも不可能ではない。個人の通信手段をコントロールしようとする動きは大抵見えないところで静かに進行していくものだ。
著作権保護は重要な問題だがP2P開発を止める口実に使うべきじゃない。今でこそネット革命なんて言葉は言うのも恥ずかしい感があるが技術革新によって得た権利を簡単に捨てるようなことは賢明ではないと思う。
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