罪と罰

レビュー

金曜日は随分と久しぶりに演劇体験をしました。こういう本格的な演劇は初めてといっても良いと思う。あまりにも経験がなかったため、不思議な体験だったというのが率直な感想。

贋作 罪と罰

脚本・演出:野田秀樹

出演:松たか子、古田新太、段田安則、宇梶剛士、他

作品はドストエフスキーの「罪と罰」を日本の幕末を舞台にアレンジしたもの。原作すら読んだことがないという無知ぶりで語る言葉を持たないのだけど、事前知識がない分物語や演出を純粋に楽しめたのではないかな。

松たか子演じる開成所の女塾生 三条英は確固たる思想を根拠として金貸しの老婆の殺害を実行するが思いがけずその妹も殺してしまい、その後も罪の意識に苛まれ続けることになる。思想や理想を根拠に人を殺すことが許されるのかというのがテーマの根幹だと思うが、古典の普遍的なメッセージを幕末日本の混乱に擬えながら分かりやすく表現していて、見る人全てが何かしらを考えさせられるようなストーリーだった。

劇は時代設定こそ幕末だけど、衣装や台詞・アドリブなども時代に捉われることなく現代風にアレンジされていて、「これが演劇なのかー」と今更ながら少しカルチャーショック。舞台を観客席が取り囲むというリングさながらの劇場空間も臨場感にあふれていて観る者も演劇の一部に取り込まれるような雰囲気を醸し出していた。また、長時間大声を張り上げながら激しく動き回る俳優達の熱演はテレビの世界とは違い「生の人間」の息遣いがして迫力が違う。また、ラストの大政奉還と英の告白はとても美しかった。

脚本・演出の野田秀樹は全共闘運動でセクトの内ゲバによる殺人を目撃した体験が、この演劇を生むきっかけになったと述べている。ありとあらゆる理想や思想・宗教・正義の名の下に殺人が正当化されてきたことは歴史が証明しており今現在もいたるところで起きている現実なのだろうと思う。演劇ならではの時間感覚の曖昧さは過去と現在を分け隔てせずに核となるテーマを表現していて、ぐっと迫るものがあった。(※1)

(※1) Y関係者onlyに解説するとまさに「スタンツ」を観ているような感覚。

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