共産主義社会がくるかもしれない

先日、英Economist紙で興味深い記事を読みました。原文はこちら。
Coming to an office near you
なお、JBPRESSに日本語訳が出ています。

記事の要旨は最初の言葉に言い表されています。
The effect of today’s technology on tomorrow’s jobs will be immense―and no country is ready for it
現在の技術が将来の雇用に与える影響は、途方もなく大きい。そして、その備えができている国はない。

つまり、昨今のニュースを賑わせている驚異的な技術の進歩、例えば自動運転車や双腕型(人型)ロボットが実用化に向けて着実に進歩していること、Amazonのドローン(自律飛行するヘリロボット)を使った商品配送の計画発表、ビッグデータと機械学習をフル活用したサービスが次々と立ち上がっていること…等々、これらが代表するようないわゆる「破壊的イノベーション」が20世紀に生まれた様々な業界の仕事に与える影響について述べています。これらは産業革命のときのような大きな変化を引き起こし社会に多くの恩恵をもたらす反面、同時に混乱を引き起こすことも予想されます。

先進国経済の慢性的デフレ、失業増加の傾向や格差拡大の原因として「破壊的イノベーション」がその要因の一つであることは疑う余地がないように思います。そして、それらは今後もゆっくり着実にしかし加速的に世の中を変えていくと思われます。これらの大きな変化の只中で社会はどうなっていくのかという疑問は未来を占う上で近年ますます大きなテーマになってきていると思います。

現在の延長線上で考えれば、この記事が書いているように行き着く先はだいたい予想が付きます。大量の失業と格差の拡大、政治の混乱。これに対して国家や国際社会はどう対処していけば良いのか、まだ誰も明確な答えは持っていません。

この記事の結論はとても重要です。
But the benefits of technological progress are unevenly distributed, especially in the early stages of each new wave, and it is up to governments to spread them.
だが、技術的進歩の恩恵は、平等に分配されるわけではない。特に、新しい波の初期段階では、その格差は大きくなる。恩恵を広める義務は政府にある。

現在の資本主義経済の仕組みではイノベーションをもたらす技術・設備・資産は基本的には資本家(株主)にその所有権があります。現在の自由市場の仕組みでは技術・設備・資産を持つ株主と一部の経営者に富が集中するのは自明であり、実際イギリスやアメリカなどはそのような現実に直面しています。しかし、それでは消費の主役である中間層は破壊されてしまい、社会の持続性を危機にさらすだけです。

政府は自国経済をなんとしても「景気回復」させることに一生懸命ですが、それ以前にこういった目前に迫った現実に対してどうやって社会を適応させ持続させていくのかをもっと真剣に考えてほしいです。いつまでも政府が問題を放置して動かなければ、いざ現実が誰の目にも明らかになったときに混乱や革命、最悪の場合は戦争といった事態になることもありえます。特に戦争やナショナリズムと言うのは政府やマスコミが現実から国民の目を逸らすための恰好の道具になり得ます。

社会が変化に適応していくために目指し得る未来のかたちを二つ考えてみたいと思います。一つは記事にもあるような政府による富の分配です。現在の分配方法は複雑かつ小規模であるため拡大する格差の前ではあまりにも非力ですが、もっとシンプルな仕組みとルールで機械的な分配が可能になれば、イノベーションがもたらす富をより平等に人々に行き渡らせることも不可能ではないかもしれません。

そしてもう一つは全ての人が資本家であるという世界です。高度な技術や設備を一部の資本家が独占するのではなく、全員で少しずつ所有しそのもたらす利益を皆で分け合う社会、それはつまり共産主義社会ではないかというわけです。これは観念的で仕組上の具体性がなく現実味があまりないのですが、年金基金のようなもので一部実現している面もあり、昨今の技術の低価格化、多様化、民主化の現象を見ているとあながち夢想というわけでもないような気がします。

これらはソ連のような暴力による社会主義革命を経ずして自由市場の中で志向することが可能な方向であることも重要です。一つ目は格差を縮めるために富が集中するのを妨げるのではなく、集中した富を合意の下で薄く分配するという考え方です。二つ目はそもそも資本そのものを薄く広く皆で所有する仕組・方法を実現しようという考え方です。結局マルクスの予言は正しかったのかもしれません。しかし、それは彼が想像したのとはまったく違う過程と方法で実現すると思われます。

いずれにせよ近い将来、社会の中で「働く」ということの価値や意味が大きく変化するように思います。只中にいる現在は小さな変化にしか見えないかもしれませんが、ずっと先になって振り返れば、もはやまったく異なる世界になっているのではないでしょうか。

2014/2/11 追記
英Financial Timesでも関連する話題で記事が出ていました。
日本語訳:人類はロボットによって二分され、支配されるのか?

2014/2/12 追記
上記のFinancial Times記事の続き
Enslave the robots and free the poor
日本語訳もそのうちJBPRESSにアップされると思います。
記事の主張はほとんど同じ感じでしょうか。

米Wall Street Journalで興味深い記事が出ていました。
Googleが台湾のFoxconn(鴻海)と共同で工場用ロボットの開発に乗り出すそうです。
Foxconn Is Quietly Working With Google on Robotics
こちらが日本語訳(有料会員のみ)
(英語は無料なのに日本語訳は有料とは…なめられとる。)

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